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小さな風穴 吉川さんの言葉から

ドラマ『精霊の守り人』最終章の2話は
若かりし頃のジグロの姿が印象的に描かれます。

『ステラ』という雑誌をお送りいただいて
吉川さんへのインタビュー記事を読んでいて
胸に響いたのは
チャレンジに対する、彼の思いでした。

現在の日本では失敗しないことが大事、という考え方が
主流かもしれないけれど
それではエンターテインメントが滅びる
たとえ、最初は小さな風穴でも、
それをたくさん開ければ、
いつの間にか大きい穴になって、
壁を破れるんじゃないですか
という趣旨の
ご発言です。

その時代に熱狂的に受け入れられるものは
その時代の空気を自然に写しています。
自分が属する社会の人々の熱狂は
安心感をもたらしてくれます

私の感性は間違っていない
他の大多数の人が同じように思っているのだから
と思える
それは本当に、幸せなことで
とても大切なことです

一方
その熱狂とは別のところで
小さな穴を空けている何かに気づいた人は
そっと辺りを見まわして
私はすごいと思うのだけど
同じことに気づいた人はいるだろうか、と
少し不安を感じているかもしれません

私は長年
マイノリティの研究をしてきました

その経験から
つくづく思うのは
人は、他者から認めてもらうことを
求め続ける生き物なのだなぁ、
ということでした

多くの他者が自分を認めてくれていることほど
人に安心感をもたらすものは
なかなかないでしょう

これは、
社会という人の群れが続いていくには
とても大切なことで
調和や秩序とも
深く関わっている心の動きですね

ただ
大多数(マジョリティ)の賛同というものは
実は、とても恐ろしい力も持ち得ます

最も大きい危険は
思考の停止と
停滞でしょう

「他の人も良いと言っているから間違っていない」
「他の人が馬鹿にしているのに、私が良いと思ってはいけないのでは」

こう思うとき、消えてしまっているのは
自分が何を基準にして物事を考えているのか
という最も大切な軸です。

ネット社会では
これまでの社会以上に
「他者からの承認」を求める気持ちに火をつけ
「他者からの否認」に傷つきますね

顔も知らぬ
どこのだれとも知らぬ
無数の他者の声が
すぐ耳元で、目の前で発せられた声のように
自分を取り巻いています

実際に発言者の顔を見ることができたなら
あ、なるほど
こういう人が言っていることなのか
と、納得できることもあるのでしょうが
そういう機会をはなから奪われたままで
無数の声に囲まれて生きるわけです

常に他者からの評価の対象になりつづける
作家という職業に就いているくせに
心がひ弱な私などは
ついつい
守りに入りたくなってしまいます

でも
創作をする者は
同時代の熱狂をちゃんと肌で知りながら
同時に
同時代の熱狂とは
少し違うところを見て
小さな風穴を開けようと思う
静かな勇気も必要なのでしょうね。

小さな風穴は
気づかれることもなく
塞がってしまうかもしれませんが
その風穴に深みがあれば
少数だけれど
次の世代を変えていく力を秘めた人たちの
心に残って
新しい、これまでにない流れを生み出してくれる
そういう可能性も秘めているのですから


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■NHK大河ファンタジー 「精霊の守り人」公式サイト
【次回予告】
第2回「カンバルの闇」
2017年12月2日(土)
午後9時00分から9時58分
2017年12月9日(土)
午前0時55分から1時53分[金曜深夜](再放送)

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