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異界百名山こぼれ話(2)

鈴木正崇先生が書かれた『山岳信仰』という本を読んでいて
熊野を歩いていたとき
地元の人から
山を「水蔵(みずくら)」と呼ぶ、という話を聞いた
エピソードに
心を惹かれました。

天からふりそそぐ雨をその身に貯めて
やがて、川を生み
里へと水を届けてくれる
水の蔵としての山

日本の各地に
山の神が春になると里へおりてきて
田の神となり
収穫が終わった秋に
また山に帰って山の神にもどる
という言い伝えがあります

人は死ぬと山へ帰り
やがて、祖霊となって子孫を守ってくれる

山は、恐ろしい場所であるのと同時に
守ってくれる祖霊がくらし
里の人々を養ってくれる
そういう場所と感じられてきたのでしょう。

桃太郎という昔話では
「川をどんぶらこ、どんぶらこ」と
桃が流れてきて
それを割ったら子どもが中から生まれ
やがて、その子は鬼ヶ島という島を目指しますが
そもそも
川は、どこから流れてくるか、といえば
もちろん「山」から流れてくるわけで
山という異界から流れてきた命が
里で育まれ
やがて、海へと漕ぎ出していくわけですね

山と海とのはざまに暮らしていた
日本人らしい昔話です。

山と海
ふたつの他界を結ぶのが川

川がそそぐ先の海では雲が湧き
やがて山に雨を降らせ
また川が生まれ海にそそぐ

人の魂も
現世とあの世をしずかにめぐる

山も川も海も
時に、荒ぶる力で生き物を脅かすこともある一方で
私たちを育む、命の巡りの場でもある

『異界百名山』で
私がスタジオトークでお話しした中には
そういう話もありました。

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