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<鹿の王>たちを守ろう

いま、この時、自分の命を危険にさらして、
他者を守るために、
一生懸命働いている人たちがいます。

医師や看護師などの医療従事者
保健所の方々、
保母さんたち、
スーパーのレジ係さん、
配達をしておられる方々など、
本当に様々な形で、多くの人たちが、
感染リスクがあることを知りながら、
他者の命と暮らしを守るために、
最前線で働いておられます。

こういう方々のことを思うと、
私は、自分が書いた『鹿の王』という物語の一節を、
思い出してしまいます。

物語の中では、
群れを守るために、
自らの命を賭して、
恐ろしい敵の前に躍りでる鹿のことを、
敬意をこめて、<鹿の王>と呼ぶのですが、
主人公ヴァンの父親は、

「敵の前にただ一頭で飛びだして、踊ってみせるような鹿は、
それが出来る心と身体を天から授かってしまった鹿なのだろう。
 才というのは残酷なものだ。ときに、死地にその者を押しだす。
そんな才を持って生まれなければ、己の命を全うできただろうに、
なんと哀しい奴じゃないか」

と言い、こうつけ加えます。

「そういう鹿のことを、呑気に<鹿の王>だのなんだのと持ち上げて話すのを聞くたびに、
おれは反吐がでそうになるのだ」
「弱い者は食い殺されるこの世で、そのいうやつがいるから、生き延びられる命もある。
たすけられた者が、そいつに感謝するのは当たり前だが、そういうやつを、群れをたすける王だのなんだのと持ち上げる気もちの裏にあるものが、おれは大嫌いなのだ」
と。

いま、
最前線で働く多くの方々が、
まさに<鹿の王>のごとく、
自らの命を、感染の危険に晒して生きていることを思うたびに、
私は、ヴァンの父親の言葉を書いていたときの気持ちを、
思い出します。

彼ら/彼女らに、私は救われています。
私は、そのことに全身全霊で感謝していて、
彼ら/彼女らに届くなら、
声を限りに、ありがとうございます! と叫びたい。

その一方で、
ただ感謝するだけではいけない、と思っています。

ウイルスとの戦いは
他人事ではない。
私自身も、当事者なのですから。

私自身も、
彼ら/彼女らを守る行動をせねばならない。

前のブログに書きましたが、
ちっぽけな「私」が、
感染しない/させない努力を、
一生懸命することが、
感染者を増やさないことにつながります。

すべての人が、
自分も感染拡大を防ぐ大きな力をもった当事者なのだ、
と思うこと、
それこそが、
彼ら/彼女らを守ることにつながるはずです。

すでに、私のブログを読んで、
ツイートしてくださっている方がおられて、
本当にうれしかったのですが、
ひとりでも多くの人が、
「人にうつさないぞ」という思いを胸に抱いて、
これからの数カ月を生きていくことが、
<鹿の王>たちを守る
何よりの力になるはずです。

ウイルスは、
感染して広がれば人の命を奪いますが、
私たちの他者を思う気持ちと行動は、
他者に伝わり、広がって行けば、
人の命を救えます。

多くの<鹿の王>たちに、
私たちは、いま、このときも、たすけてもらっています。

私たちも、<鹿の王>たちを守ろうじゃありませんか。

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